考えさせられる中身です。
天皇陛下の年頭所感を読む
江川 紹子 | ジャーナリスト
毎年、年の初めに発表される天皇陛下の所感。戦後70年となる今年は、戦争がもたらした多くの犠牲に触れ、「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なこと」と述べられた。
過去にしっかりと向き合い、そこから教訓を学び、2度と悲惨な戦争の当事国とならないよう、この機会にしっかり考えていこうという呼びかけと、私は受け止めた。ただ、新聞によっては、なぜか「歴史を学び」という言葉を見出しから割愛し、「日本のあり方考える機会」(読売)「日本のあり方考えていくこと極めて大切」(産経)としたところもあった。
ふと思い立って、今上陛下が天皇となられて最初に迎えた平成2年(1990)から今年に至る26回の年頭所感をすべて読んでみた。
これまでの26回で「経済」という言葉が15回も使われているのは、意外だった。「厳しい経済状態」を案じ、人々を励ます発言が多い。陛下のお言葉から、その時々の社会状況が思い起こされる。
特に多いのは災害への言及。言葉としても、「災害」19回、「被災」11回、「震災」10回のほか、「台風」「豪雨」「雪」なども5~6回出て来る。2012年以降は、3年連続で「放射能汚染」という言葉が使われている。原発事故に対する陛下の強い関心と被災者を案じるお気持ちが伝わってくる。
戦争と平和に関わる言葉も多い。「平和」は12回、「戦争」6回使われ、世界各地の戦争や紛争にも言及されている。戦後の節目となる年については、必ず日本の戦争について語られている。戦後50年となった平成7年(1995)には「この節目の年にあたり、過去を振り返り、戦争の犠牲者に思いをいたすとともに、今日の繁栄を築いた人々の労苦をしのび、改めて世界の平和を祈りたい」と述べられた。さらに翌年にも、前年に印象深いこととして戦後50年を挙げられた。
戦後60年については、翌年の平成18(2005)年の所感の中で触れられた。ほかに、平成10年(1998)には「昨年は、日本国憲法施行から50年、沖縄返還から25年の節目に当たり、我が国の歩んできた過去を振り返った」と語られている。平成15年(2003)には、平和条約発効50年に言及された。
そうした発言での、過去を「振り返り」、犠牲者に「思いをいたす」という表現に比べてみると、今年の「歴史を充分に学び」という言葉に、陛下がどのような思いを込められたのかがうかがわれる。特に、「満州事変に始まる戦争の歴史」と具体的に述べられたのは、対米戦争だけでなく、アジアにおける日本の戦争の歴史を学び、そこから教訓を学ぶことの大切さを、あの戦争を知る者として伝えたい、という強いお気持ちゆえではないだろうか。
新年に発せられたお言葉を通して読んでいくと、折に触れて過去を顧みて、今と未来を考える、という陛下の姿勢や、今回のお言葉に込められた思いもお気持ちが理解できるように思う。以下に全文を引用するが、お言葉の後の〈〉内は、その年の状況を思い起こす手がかりとして、主な出来事をいくつか江川がピックアップして紹介した。
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下をクリックすると文章の後半から、平成2年からの「年頭所感」が掲載されています。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/egawashoko/20150102-00041979/